何が起きたのか

2026年4月7日、Anthropicは次世代AIモデル「Claude Mythos」のプレビュー版と、サイバーセキュリティ共同プロジェクト「Project Glasswing」を同時に発表した(TechCrunch、VentureBeat、2026年4月7日報道)。

Mythosの最大の特徴は、すべての主要OSとすべての主要Webブラウザにおいて、数千件のゼロデイ脆弱性を自律的に発見したことだ。ゼロデイとは、ソフトウェア開発者が認識していない未知の脆弱性を指す。

Anthropicはこのモデルを一般公開しない方針を明確にしている。「危険すぎる」ためだ。代わりに、Project Glasswingを通じて12の主要企業・団体に限定的にアクセスを提供し、防御目的での利用に限定する(CNBC、2026年4月7日報道)。


Mythosの性能──従来モデルを大幅に凌駕

AnthropicのSystem Card(2026年4月7日公開)およびRed Teamブログによると、Mythosは主要ベンチマークで圧倒的なスコアを記録している。

ベンチマークClaude Mythos PreviewClaude Opus 4.6GPT-5.4
SWE-bench Verified(GitHub課題解決)93.9%80.8%約80%
SWE-bench Pro(高度な問題解決)77.8%53.4%57.7%
USAMO 2026(数学オリンピック)97.6%42.3%95.2%
Terminal-Bench 2.082.0%65.4%75.1%

SWE-bench Verifiedでの93.9%は、GitHubの実際のイシューをAIが自律的に解決する能力を測定するもので、Opus 4.6の80.8%を13ポイント以上引き離している(Wandb報道)。


発見されたバグ──27年間見逃されたOpenBSD、16年間検出されなかったFFmpeg

Mythosが発見した脆弱性の具体例が、その能力の異常さを物語る。

OpenBSD:27年間のバグ MythosはOpenBSDのSACK実装に存在するバグを完全に自律的に特定した。このバグは27年間にわたって見逃されてきたもので、数パケットのデータを送信するだけでサーバーをクラッシュさせることが可能だった(Anthropic公式Red Teamブログ、2026年4月7日)。

FFmpeg:16年間のバグ オープンソースのマルチメディアライブラリFFmpegでは、16年間コードベースに潜伏していたバグをMythosが発見した。このバグ該当行は自動テストで500万回以上実行されていたが、一度も検出されなかった。FFmpegプロジェクトはAnthropicにClaudeを通じたバグ修正に謝意を表明している(PiunikaWeb、2026年4月8日報道)。

脆弱性の連鎖(Chaining) Mythosの際立った能力の一つに、複数の軽微な欠陥を自律的に組み合わせてシステム全体を掌握する「脆弱性チェイニング」がある。人間の専門家なら数週間かかるルート権限奪取を、Mythosは数分で完了させる。


Project Glasswing──12社連携、1億ドル投入

Anthropicは「攻撃者がMythos級の能力を手に入れる前に、世界の重要インフラを防御する」ために、Project Glasswingを立ち上げた(Anthropic公式、VentureBeat報道)。

参加パートナー(12組織) AWS、Apple、Broadcom、Cisco、CrowdStrike、Google、JPMorgan Chase、Linux Foundation、Microsoft、Nvidia、Palo Alto Networks

投資規模

  • パートナーへのMythos利用クレジット:1億ドル分
  • オープンソースセキュリティ団体(Linux Foundation等)への寄付:400万ドル

Anthropic CEOのダリオ・アモデイ氏は「正しく運用できれば、AI登場以前よりも根本的に安全なインターネットを構築する機会となる」と述べている(VentureBeat、2026年4月7日報道)。

Project Glasswingの目標は、Mythosの防御能力を活用して世界中の重要ソフトウェアをスキャンし、脆弱性にパッチを適用することだ。最終的には、Mythos級モデルを安全にスケール展開できる体制を構築することを目指している。


なぜ一般公開しないのか──10のリスク

Anthropicおよびセキュリティ専門家が特定するリスクは深刻だ。

  1. エクスプロイト開発の高速化:脆弱性の発見から攻撃実行までが数ヶ月から数分に短縮される
  2. サイバー攻撃の民主化:専門知識のないユーザーでもAIに指示するだけでプロ級の攻撃が可能になる
  3. 「秘匿によるセキュリティ」の終焉:クローズドソースのソフトウェアも逆コンパイルしてバグを発見できるため、コードを隠す防御策が無効化される
  4. 自動化された持続攻撃:AIエージェントが24時間365日、数千通りの攻撃パターンを試行し続ける

VentureBeatの報道(2026年4月7日)は、Anthropicがこのモデルを「一般公開には危険すぎる」と判断した理由として、「最も熟練した専門家を除くすべての人間を上回る脆弱性悪用能力」を持つ点を挙げている。


情報漏洩の経緯──CMS設定ミスとソースコード流出

Mythosの存在は、本来の発表前に2つの情報漏洩で明るみに出た。

2026年3月26日:CMS設定ミス Anthropicの広報用CMSのアクセス制御設定ミスにより、約3,000件の未公開ブログ投稿やPDFが一時的に公開状態になった。Mythosの存在と能力、段階的公開方針が市場に露呈した(Fortune独占報道、2026年3月26日)。Anthropicは「コンテンツ管理システムの設定における人為的ミス」と認めた。

2026年3月31日:Claude Codeソースコード流出 npmパッケージに59.8MBのソースマップファイルが誤って含まれ、Claude Codeの約51万2,000行のTypeScriptソースコードが公開された(Zscaler ThreatLabz報告)。GitHub上で数万回フォーク・ミラーリングされ、AnthropicのDMCA削除申請が追いつかない状況になっている。

さらに深刻な二次被害として、「流出したClaude Code」を偽装したマルウェア配布が確認された。Zscaler ThreatLabzの分析によると、偽リポジトリからVidar(情報窃取マルウェア)とGhostSocks(プロキシマルウェア)が配布されている。


株式市場への影響──セキュリティ銘柄が急落

Mythosの能力が明らかになった翌日、サイバーセキュリティ銘柄が軒並み下落した(Yahoo Finance報道)。

銘柄下落率
CrowdStrike(CRWD)-7%
Palo Alto Networks(PANW)-6%
Zscaler(ZS)-5%

市場は、AIによる攻撃能力の飛躍が従来のシグネチャベース防御を無効化するリスクを即座に織り込んだ形だ。ただし、CrowdStrikeとPalo Alto NetworksはProject Glasswingのパートナーでもあり、Mythos級AIの防御利用で新たな事業機会を得る可能性もある。


よくある質問

Q: Claude Mythosは使えますか?

一般ユーザーには公開されていません。Project Glasswingのパートナー12社に限定的にアクセスが提供され、防御目的のセキュリティリサーチにのみ利用されます。

Q: Mythosはハッキング専用に訓練されたのですか?

いいえ。汎用フロンティアモデルとして設計されたもので、ハッキング専用のトレーニングは行われていません。高度な推論・コーディング能力の結果として、セキュリティタスクでも人間の専門家を超える性能を発揮しています。

Q: Project Glasswingに日本企業は参加していますか?

2026年4月8日時点で発表されている12パートナーに日本企業は含まれていません。ただし、Anthropicは今後のパートナー拡大を示唆しています。

Q: Claude Codeの流出コードは安全ですか?

GitHub上で流通しているClaude Codeのコードには、マルウェアが仕込まれた偽バージョンが混在しています。Zscaler ThreatLabzが警告しているように、非公式なソースからダウンロードしたClaude Code関連ファイルは実行しないでください。


主要出典

  • TechCrunch「Anthropic debuts preview of powerful new AI model Mythos in new cybersecurity initiative」(2026年4月7日)
  • VentureBeat「Anthropic says its most powerful AI cyber model is too dangerous to release publicly — so it built Project Glasswing」(2026年4月7日)
  • Anthropic公式「Project Glasswing: Securing critical software for the AI era」
  • Anthropic Red Teamブログ「Assessing Claude Mythos Preview’s cybersecurity capabilities」(2026年4月7日)
  • CNBC「Anthropic limits Mythos AI rollout over fears hackers could use model for cyberattacks」(2026年4月7日)
  • Fortune「Anthropic is giving some firms early access to Claude Mythos to bolster cybersecurity defenses」(2026年4月7日)
  • Fortune「Exclusive: Anthropic ‘Mythos’ AI model representing ‘step change’ in capabilities」(2026年3月26日)
  • Zscaler ThreatLabz「Anthropic Claude Code Leak」
  • Yahoo Finance「Cybersecurity stocks plunge as Anthropic’s Claude Mythos leak」
  • PiunikaWeb「FFmpeg thanks Claude Mythos for real 16-year bug fix」(2026年4月8日)