何が起きたのか
欧州委員会は2026年8月31日、ChatGPT を デジタルサービス法(DSA)上の「超大規模オンライン検索エンジン」(VLOSE)として、Reddit と Roblox を「超大規模オンラインプラットフォーム」(VLOP)として指定しました(European Commission 2026-08-31)。公式ニュースは指定理由をこう書いています。「These services declared that they reach at least 45 million average monthly users in the EU and thus meet the threshold for designation.」──今回の指定の直接の基礎として委員会が公表したのは、各サービスによるEU域内4,500万人以上の平均月間利用者数の申告です。もっとも、指定そのものはDSA第33条に基づく委員会の決定であり、事業者の自己申告だけで自動的に発生する制度ではありません。なおChatGPTについて一覧に載る1億5,910万人は、OpenAIが同法第24条(2)に基づいて開示した「ChatGPT search」──同社のウェブ検索機能──についての値です。
委員会が公開している指定済みサービス一覧(European Commission)には、この3件が次の数字で追加されています。
| サービス | 事業者 | 申告EU月間利用者 | 区分 |
|---|---|---|---|
| ChatGPT | OpenAI Ireland Limited | 1億5,910万人 | VLOSE |
| Reddit Netherlands B.V. | 5,720万人 | VLOP | |
| Roblox | Roblox | 4,660万人 | VLOP |
同じ一覧には注記が付いています。「As reported by the provider (e.g. transparency reports, website) and without prejudice to the assessment by the Commission of the methodology used to calculate the active recipients of service」。委員会は数字を受け取って載せているだけで、算出方法の妥当性はまだ判断していない、と明示的に留保しています。
生成AIチャットボットがVLOSEに指定されたのは、この一覧を見る限り今回が初めてです。
なぜチャットボットが『検索エンジン』なのか
直感に反しますが、DSA第3条(j)の定義そのものは、検索機能に着目するかぎりチャットボットを排除しません。第3条(j)は「オンライン検索エンジン」をこう定義しています。
an intermediary service that allows users to input queries in order to perform searches of, in principle, all websites, or all websites in a particular language, on the basis of a query on any subject in the form of a keyword, voice request, phrase or other input, and returns results in any format in which information related to the requested content can be found
まず末尾の「returns results in any format」です。この定義は結果の提示形式を限定しません。10本の青いリンクを返すか、散文の要約を返すかは、それだけでは該当性を左右しません。入力形式も「keyword, voice request, phrase or other input」と広く取ってあり、自然文のプロンプトを排除しません。
ただし同じ定義には、もう一つの要件が置かれています。「searches of, in principle, all websites, or all websites in a particular language」──原則としてすべてのウェブサイト、または特定言語のすべてのウェブサイトを検索すること。したがって回答の形式だけを見て、ChatGPTが検索エンジンに当たると言うことはできません。
委員会はこの要件をどう埋めたのか。Search Engine Journal の報道(Search Engine Journal 2026-08-31)によれば、委員会はChatGPTを「a hybrid service that qualifies as an online search engine because it responds to users’ prompts and queries, including by searching the web」と位置づけた、つまりウェブ検索機能を含むハイブリッドなサービスであるがゆえに検索エンジンに該当する、と整理したとされています。この文言自体は筆者が委員会の一次文書では確認できておらず、報道への帰属として扱ってください。
OpenAI自身も、DSA第24条(2)に基づく開示の単位を「ChatGPT search」──同社のウェブ検索機能──として公表しており、その1億5,910万人がそのまま委員会の一覧に転記されています(開示ページはOpenAI Help Center。ただし同ページは筆者のアクセスに対してHTTP 403を返すため、開示原文の文言は直接確認できておらず、本記事の値は報道および委員会一覧を経由したものです)。指定そのものに対する異議申立てや反論の報道は、本記事執筆時点では確認できていません。
45と159.1と41.3──3つの数字の分母
ここが今回いちばん誤読されやすいところです。数字は3つあり、それぞれ性質が違います。
4,500万は法律が決めた閾値です。 DSA第33条(1)は「This Section shall apply to online platforms and online search engines which have a number of average monthly active recipients of the service in the Union equal to or higher than 45 million」と規定しています。EU人口のおよそ1割に相当する水準で、閾値は利用者数だけで決まり、売上や事業規模とは無関係です。ただし同項は続けて「and which are designated as very large online platforms or very large online search engines pursuant to paragraph 4」と条件を重ねており、閾値を超えれば自動的に追加義務が生じるのではなく、第33条(4)に基づく委員会の指定決定が要ります。閾値そのものも完全な固定値ではなく、第33条(2)は「The Commission shall adopt delegated acts in accordance with Article 87 to adjust the number of average monthly active recipients of the service in the Union referred to in paragraph 1, where the Union’s population increases or decreases at least by 5 % in relation to its population in 2020」として、EU人口が2020年比で5%以上増減した場合に委任法で調整されうると定めています(DSA 第33条)。
1億5,910万はOpenAI自身が出した数字です。 DSA第24条(2)は、オンラインプラットフォーム・検索エンジンの提供者に対し、EU域内の平均月間アクティブ利用者数を6か月ごとに公表する義務を課しています。OpenAI Ireland Limited がこの義務に基づき公表した「2026年3月31日終了の6か月平均で、ChatGPT search の平均月間アクティブ受信者は約1億5,910万人」という開示が、そのまま委員会の一覧に転記されています。第三者による測定ではなく、法定の開示義務に基づいて当事者が公表した値です。開示の単位が「ChatGPT search」である以上、これをChatGPT全体の一般的な利用者数として扱うことはできません。
閾値に対する倍率は単純な割り算で出ます。
$$r = \frac{159.1}{45} \approx 3.54$$4,130万は1年前の同じ開示です。 2025年4月時点の報道(Search Engine Land 2025-04-22)は、OpenAIの開示文言を「For the six-month period ending 31 March 2025, ChatGPT search had in combination approximately 41.3 million average monthly active recipients in the European Union」と引用しています。この時点では閾値4,500万を下回っていました。 12か月で
$$\frac{159.1}{41.3} \approx 3.85$$倍。同一事業者が同一の法定様式で出した数字どうしなので、概念上は比較可能性が高いといえます。ただし各時点の一次開示原文と、その算定方法が完全に同一であるところまでは検証できていません。出典の格も揃っていません。1億5,910万は委員会の指定済み一覧という一次資料に掲載された値である一方、4,130万と1,120万は Search Engine Land、1億2,040万は Euronews という二次報道を経由した値です。そして、この2つは連続する開示でもありません。第24条(2)の開示は6か月ごとで、4,130万人と1億5,910万人のあいだには2025年9月終了期の約1億2,040万人という開示が挟まっており(Euronews 2025-10-22)、4,130万人の前期には1,120万人の開示もあります(Search Engine Land 2025-04-22)。系列は 11.2 → 41.3 → 120.4 → 159.1 で、上の3.85倍はあいだに1期を挟んだ12か月比です。加えて「ChatGPT search」という開示単位が両年で完全に同じ集計範囲かどうかまでは、筆者は確認できていません。
比較対象を置くと位置づけが見えます。ChatGPTの指定前、一覧上のVLOSEは Google Search(3億6,400万人)と Bing(1億1,900万人)の2件でした(いずれも同一覧の申告値。ChatGPTが加わって現在は3件です)。ChatGPT の1億5,910万は、一覧に載っている申告値ベースではBingを上回ります。ただしこれを「EUで2番目に大きい指定検索エンジン」と順位づけるのは避けます。一覧は各行の数字がどの報告期のものかを示しておらず、注記も「As reported by the provider」と述べるだけです(European Commission)。ChatGPT の1億5,910万が2026年3月31日終了期という明確に新しい値であるのに対し、Google Search と Bing の数字がいつ時点のものかは一覧からは分からず、観測時点の揃っていない比較になるためです。
なおRobloxの4,660万は閾値をわずか160万人、率にして約3.6%上回るだけです。もっとも、算定方法の詳細を確認せずにこの余裕の大きさを評価することはできません。委員会が算出方法に留保を付けている意味はここにも効いてきます。
4か月後に何が要るのか
指定されると、DSA第III章第5節の追加義務が乗ります。主なものを条文から拾います。
系統的リスクの評価と緩和(第34条・第35条)。提供者は「diligently identify, analyse and assess any systemic risks in the Union stemming from the design or functioning of their service」を求められ、以後少なくとも年1回繰り返します。第34条(1)が挙げるリスク類型は4つ──(a) 違法コンテンツの拡散、(b) 基本的権利(人間の尊厳、私生活、データ保護、表現の自由、無差別、児童の権利、消費者保護)への悪影響、(c) 市民的言論・選挙プロセス・公共の安全への悪影響、(d) ジェンダーに基づく暴力、公衆衛生、未成年者の保護、および心身の健康への重大な悪影響。評価文書は3年間保存し、求めに応じて委員会と設立地のデジタルサービス調整官に提出します(第34条(3)。ChatGPTの場合はアイルランドの調整官であり、27加盟国の調整官が個別に求められるわけではありません)(DSA 第34条)。
独立監査(第37条)。「at least once a year」、しかも「at their own expense」で外部監査を受けます。監査意見は「positive」「positive with comments」「negative」の3段階です。是正義務が発動する条件は第37条(6)で「receiving an audit report that is not ‘positive’」とされており、「negative」だけでなく中間段階の「positive with comments」も含みます。positive 以外の意見が付いた提供者は運用上の勧告を考慮したうえで、受領から1か月以内に対応措置をまとめた audit implementation report を採択しなければなりません(DSA 第37条)。
審査済み研究者へのデータ開放(第40条)。第40条(4)は、系統的リスクの検出・特定・理解に資する研究のために、審査を通った研究者へデータアクセスを提供することを求めます。委員会・調整官への直接のデータ提供義務(第40条(1))も別途あります。
広告リポジトリ(第39条)、非プロファイリング型レコメンダの選択肢(第38条)、独立したコンプライアンス機能(第41条)も同節に並びます。ChatGPTの現在の製品形態にそのまま当てはまらない条項もあり、どこまで適用されるかは今後の運用次第です。
監督負担金(第43条)。指定事業者は年次の監督手数料を課されます。上限は前会計年度の全世界年間純収入の0.05%。委員会の監督コストを賄う建て付けです。
締切は12月末か、1月か
報道が割れています。ppc.land は「All three have until the end of December 2026 to comply」と書き(ppc.land)、PYMNTS は「until the end of January 2027」と書いています。
一次情報を見ると答えははっきりします。委員会の公式ニュースは「Following the notification of the designations, these services have four months, i.e. by January 2027, to comply with the additional DSA obligations for VLOPs and VLOSEs」と明記しています(European Commission 2026-08-31)。2027年1月という期限は一次資料が直接述べている値であり、誰かが通知日から逆算した推定ではありません。PYMNTS もこれを「according to the release」として引いています。
では「end of December 2026」はどこから出てくるのか。8月31日の公表日に機械的に4か月を足すと12月31日になるので、公表日を起算点とみなした計算と整合します。ただしDSA第33条(6)は、追加義務が「from four months after the notification to the provider concerned」に適用開始と定めており、条文上の起算点は公表日ではなく事業者への通知日です。その通知日は確認した公表資料の範囲では見つけられなかったため、公表日と通知日がずれているのか、ずれているとして両報道の差がそれで説明できるのかは、外部からは確定できません。整理するとこうなります。委員会ニュースは通知後4か月、すなわち「2027年1月まで」と案内しており(European Commission 2026-08-31)、ppc.land の「end of December 2026」はこの案内と一致しません。法的には第33条(6)により、起算点は事業者への通知日です。その通知日が公開資料から確認できない以上、厳密な最終日を外部から特定することはできません。
残された不確実性
- 1億5,910万の集計範囲。 OpenAIの開示は「ChatGPT search」、すなわち同社のウェブ検索機能を単位とするものであり、ChatGPT全体の一般的な利用者数として扱うことはできません。ただし active recipient を具体的にどう数えているのか──ウェブ検索が実際に走った利用に限るのか、ログイン状態をどう扱うのか──は、公開されている資料からは確認できません。筆者がOpenAIの透明性ページに直接アクセスを試みた際にはHTTP 403が返り、開示原文に付されている算定目的や留保の文言も確認できていません。本記事の引用は報道および委員会一覧を経由した値です。委員会自身も算定方法に留保を付けています。
- 委員会による hybrid service の文言。 VLOSE該当と判断した理由づけの引用は Search Engine Journal 経由であり、対応する委員会の一次文書は確認できていません。
- 通知日。 4か月の起算点となる事業者への通知日は、確認した公表資料の範囲では見つけられませんでした。
- どの義務が実際にどう適用されるか。 広告リポジトリやレコメンダの非プロファイリング選択肢は、リンク一覧型の検索エンジンやSNSを念頭に書かれた条文です。対話生成型のサービスに対する具体的な運用は、今後の委員会のガイダンスや監査実務を待つ必要があります。
- VLOP指定を受けなかったChatGPTの他機能。 ChatGPTはVLOSEとしてのみ指定されました(委員会の一覧でも区分はVLOSE単独で、VLOPとしての掲載はありません)。GPTストアや共有リンクのようなホスティング的機能がVLOPの定義(第3条(i)「‘online platform’ means a hosting service that, at the request of a recipient of the service, stores and disseminates information to the public」)に該当しうるかについては、委員会の公表資料からは言及を確認できませんでした。委員会がこの論点を検討したかどうかも、公表資料の範囲では判断できません。
まとめ
2026年8月31日の指定で確定した事実は3つです。第一に、生成AIチャットボットがDSA上の検索エンジンとして扱われる前例ができました。根拠として引かれるのは第3条(j)の「returns results in any format」という形式非依存の定義ですが、同じ条文は「原則としてすべてのウェブサイト」を検索することも要件に置いており、これを「拡張ではなく素直な当てはめ」と言い切ることはできません。検索機能に着目すれば条文には収まる一方、チャットボット全体をどう扱うか──検索機能を独立のサービスと見るのか、サービス全体の一部と見るのか──は条文からは一義に決まらず、委員会がChatGPTを hybrid service として構成することで初めて成立した当てはめです。法学者 Joan Barata も指定前の論考で「A service such as ChatGPT does not seem to fit in either of the three main categories established under the DSA」「only some specific features of ChatGPT can be strictly considered as search, unless we completely denaturalize the notion」と指摘しています(Tech Policy Press 2025-10-29)。実際、閾値を超えた申告値は「ChatGPT search」という機能単位の数字である一方、指定されたのは一覧上「ChatGPT」というサービス全体であり、両者のあいだには本記事でも埋められていない飛躍が残ります。第二に、委員会が指定の基礎として公表したのは、OpenAI自身が第24条(2)に基づいて開示した1億5,910万という値であり(1年前の同じ開示は4,130万で閾値未満でした)、指定そのものは第33条に基づく委員会の決定です。第三に、追加義務の適用開始について委員会ニュースは通知後4か月、すなわち「2027年1月まで」と案内しています。法的な起算点は第33条(6)により事業者への通知日で、通知日が公開資料から確認できないため、厳密な最終日は外部から特定できません。
EU市場でAI製品を出す側にとって実務的な含意は、第24条(2)に基づく自社の利用者数開示が4,500万人の閾値到達を可視化し、委員会によるVLOP/VLOSE指定判断の重要な基礎になり得るという点にあります。開示は半年ごとに更新され、そこに書いた数字が指定を検討する出発点になります。4,500万は遠い数字に見えても、ChatGPTは12か月で4,130万から1億5,910万へ動きました。
主要出典
- Commission designates ChatGPT, Reddit, Roblox under Digital Services Act — 欧州委員会公式ニュース(2026-08-31)。指定の事実、4,500万人の閾値、「four months, i.e. by January 2027」の期限、系統的リスク類型を確認
- Supervision of the designated very large online platforms and search engines under DSA — 欧州委員会の指定済みサービス一覧。ChatGPT 1億5,910万/Reddit 5,720万/Roblox 4,660万、指定日2026-08-31、および算定方法への留保注記の出所
- Regulation (EU) 2022/2065 (Digital Services Act) 第3条・第24条・第33条・第34条・第37条・第40条・第43条 — EUR-Lex の公式正文。検索エンジンの定義、4,500万閾値と第33条(4)の指定決定、6か月ごとの利用者数開示、通知から4か月の起算、リスク類型、年次独立監査、研究者データ開放、監督負担金0.05%上限の条文根拠
- EU Digital Services Act (DSA) — OpenAI公式のDSA開示ページ。第24条(2)に基づく「ChatGPT search」の平均月間アクティブ受信者数の一次開示先(2026-09-01の筆者アクセスではHTTP 403が返り、原文は未確認)
- ChatGPT search has 41 million average monthly users in EU — 2025-04-22。前年同期の第24条(2)開示「approximately 41.3 million」および前期1,120万人の引用元(二次情報)
- ChatGPT Is Now A Very Large Online Search Engine In The EU — 2026-08-31。hybrid service という判断理由と義務の整理(二次情報)
- ChatGPT Faces Greater Regulatory Oversight by EU — 2026-08-31。遵守期限を「until the end of January 2027」とする記述の出所(二次情報)
- ChatGPT could face strictest set of EU rules as it hits 120 million users in Europe — 2025-10-22。2025年9月終了期の開示 約1億2,040万人の出所(二次情報)
- EU Weighs Regulating OpenAI’s ChatGPT Under the DSA. What Does That Mean? — 2025-10-29。Joan Barata によるDSA分類上の難点の指摘(二次情報)
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