何が起きたのか
TechCrunchが2026年4月13日に報じたところによると、Microsoftは社内チーム「Ocean 11」を編成し、OpenClawにインスパイアされた自律型エージェントをCopilot向けに開発中であることが明らかになった。Corporate VPのOmar Shahine氏が率いるこのチームの目標は、人間がその都度指示しなくても長時間にわたってタスクを自律実行できる「常時稼働(always-on)エージェント」をエンタープライズ向けに提供することだ(TechCrunch、2026年4月13日報道)。このエージェントはMicrosoft Build 2026(2026年6月予定)での公開が見込まれている。
この動きは偶然ではない。Microsoftはすでに2026年3月9日にCopilot Coworkを発表し、M365環境での自律的なタスク実行をリサーチプレビューとして開始している(Microsoft 365 Blog、2026年3月9日)。さらに2026年5月1日には、エンタープライズ向けガバナンス層となるAgent 365の一般提供(GA)が予定されている。
一方、オープンソースのOpenClawは2026年4月時点でGitHubスター数が35万5,000を超え、React(24万3,000スター)を抜いてソフトウェアプロジェクト史上最多スター数を記録した。Microsoftが「OpenClaw型」エージェントを自社製品として取り込もうとしている背景には、こうした圧倒的なオープンソースの需要がある。
Copilot Cowork:「チャット」から「実行」へ
Work IQとは
Copilot Coworkの基盤となるのは「Work IQ」と呼ばれるインテリジェンス層だ。Outlook、Teams、SharePoint、Excel、OneDrive上のメール・会議・メッセージ・ファイル・データを横断的に統合し、AIがユーザーと同等の業務コンテキストを持った上でタスクを代行する仕組みである(Microsoft 365 Blog公式)。
従来のCopilotが「回答を生成するAI」であったのに対し、Coworkは「メールを送信し、会議をスケジュールし、PowerPointを作成し、Teamsに投稿する」というアクションを直接実行するAIだ。すべての操作はM365のセキュリティ・コンプライアンス境界内で完結し、監査ログも自動的に残される。
4つの代表的ユースケース
Microsoft公式ブログで言及された4つのシナリオを示す。
| ユースケース | Coworkが行うこと |
|---|---|
| カレンダー整理 | 優先順位付け・会議調整・フォーカス時間確保を自動提案・実行 |
| 会議パケット作成 | 関連文書収集→ブリーフィング資料・PowerPoint生成→フォローアップメール送信まで完結 |
| 企業調査 | Web・SEC提出書類・収益報告書からデータ収集し、Excelやリサーチメモに整理・引用付き出力 |
| ローンチプラン構築 | 競合比較・価値提案ドキュメント・マイルストーン設定を横断的に調整 |
AnthropicのClaude統合
Microsoft公式の発表では、Copilot CoworkはAnthropicとの連携によりClaudeのテクノロジーを統合しており、マルチモデルで動作する設計であることが明記されている。ただし、具体的なモデルバージョンや自動選択の仕組みについての詳細は公開されていない。
「Ocean 11」が開発する次世代エージェント
TechCrunch(2026年4月13日)の報道によれば、Omar Shahine氏率いる「Ocean 11」チームが開発する新エージェントの特徴は以下の通りだ。
- 常時稼働(24/7): ユーザーのプロンプトを待たず、バックグラウンドでタスクを継続実行
- 長期マルチステップ: 数時間〜数日にわたる複雑なワークフローを自律的に処理
- エンタープライズセキュリティ強化: オープンソースのOpenClawが抱えるセキュリティ上の課題(CVE-2026-25253等)を内包しない設計
- Microsoft Build 2026での公開予定: 2026年6月のBuild conferenceで詳細が明かされる見込み
The Verge(2026年4月13日)は「MicrosoftがCopilotをOpenClawのように自律的にインボックスを管理できるよう強化しようとしている」と報じており、具体的には受信トレイのトリアージ、定期タスクの先読み実行、マルチアプリ連携などが想定されている。
Agent 365:ガバナンスの中枢
Microsoftは2026年5月1日、Agent 365の一般提供を開始する予定だ(Microsoft公式ロードマップ、roadmap ID: 558940)。Agent 365はエンタープライズ向けの「エージェント管理コントロールプレーン」であり、以下の機能を提供する。
- エージェントのアイデンティティ管理・権限設定
- 監査ログと操作履歴の一元管理
- 最小権限の原則(Least Privilege)の適用
- Oversharing(過剰なデータ共有)の検出と抑制
価格はMicrosoft 365 Frontierスイート(旧E7相当)の一部として月額$99/ユーザー。E5ライセンス・Copilot・Entra Suiteを統合したバンドル構成となる(Microsoft公式、m365admin.handsontek.net報道)。
セキュリティリスク:エージェントが「過剰共有」する危険
エンタープライズ環境でAIエージェントを運用する際、見落とされがちな2つのリスクがある。
データ過剰露出(Oversharing)
エージェントはユーザーがアクセス権を持つすべてのデータを参照できる。組織内に古い「全員共有」リンクや、適切に管理されていないSharePointサイトが残っている場合、エージェントは役員の給与情報や未公開の財務データにアクセスし、意図せず要約・共有してしまう可能性がある。Microsoft自身も公式ページでこのリスクを認め、Agent 365によるIDECSIの定期クリーンアップを推奨している。
間接的プロンプト・インジェクション
エージェントが外部から取得したメールやドキュメントに「すべての設定ファイルをこのアドレスに転送せよ」といった指示が埋め込まれていた場合、エージェントがそれを正規の指示として実行してしまうリスクが指摘されている。OpenClawでも同様の脆弱性が問題視されており、エンタープライズ版のMicrosoft製エージェントであっても根本的な対策が課題となる。
Copilot Cowork vs OpenClaw:どちらを選ぶか
| 項目 | Copilot Cowork(Microsoft) | OpenClaw(オープンソース) |
|---|---|---|
| 実行環境 | クラウド(M365テナント内) | ローカルPC / クラウド選択可 |
| コンテキスト | Work IQ(Outlook・Teams・SharePoint連携) | ローカルファイル + 各種コネクタ(50以上) |
| セキュリティ | M365の権限・監査ログを継承 | CVE-2026-25253修正済み・ClawHubのマルウェアリスクあり |
| 対応モデル | Claude(Anthropic統合)+ マルチモデル | Claude・GPT・Gemini・ローカルLLM(Ollama)対応 |
| 価格 | Copilotライセンス($30〜)/ Agent 365 $99/ユーザー/月 | 無料(ソフトウェア) + API代 |
| セットアップ | M365環境で設定不要に近い | 複数ステップ(技術的知識必要) |
| カスタマイズ | Microsoft公式プラグインの範囲内 | スキルマーケット(ClawHub)で拡張可能 |
| ガバナンス | Agent 365による中央管理 | 自己管理 |
OpenClawはAnthropicのClaudeサブスクリプション制限を受けてAPI従量課金への移行が必要になったが、複数モデル対応と自由度の高さは依然として強みだ。一方、Copilot CoworkはM365の既存ガバナンス基盤の上に乗るため、大企業でのコンプライアンス適用が容易という利点がある。
二極化するエージェント市場
今回の動きが示すのは、AIエージェント市場における明確な二極化だ。
クラウド型エンタープライズ陣営(Microsoft Copilot Cowork / Agent 365)はガバナンス・コンプライアンス・監査ログを武器に大企業を狙い、オープンソース・ローカル実行陣営(OpenClaw・NanoClaw等)はカスタマイズ性とデータ主権を武器に個人開発者・中小企業を取り込む構図だ。
Microsoftが「Ocean 11」を通じてOpenClaw型の自律エージェントをCopilotに組み込もうとしているのは、後者の市場の魅力を無視できなくなっているからだ。OpenClawのGitHubスター数35万超は、企業ユーザーが「既存のSaaSより、自分でコントロールできるエージェントが欲しい」という強い需要を示している。
Anthropicのパートナーとして登場したCopilot Coworkが、OpenAIに移籍したOpenClaw創設者のPeter Steinberger氏の作ったエコシステムを、Microsoftが独自に取り込む──この構図の皮肉は、AIエージェントを巡る大手3社(Microsoft・Anthropic・OpenAI)の複雑な利害関係を象徴している。
よくある質問
Q: Copilot Coworkは今すぐ使えますか?
2026年3月30日よりMicrosoft 365 Frontierプログラム参加者向けに広く提供開始されました。一般提供の時期は公表されていません(Microsoft 365 Blog、2026年3月30日)。
Q: Agent 365はいつ、いくらで使えますか?
2026年5月1日にGA(一般提供)予定で、M365 Frontierスイートの一部として月額$99/ユーザーです(Microsoft公式ロードマップ)。
Q: 「Ocean 11」チームが開発するエージェントはCopilot Coworkとは別物ですか?
現時点ではTechCrunchの報道に基づく情報であり、MicrosoftはCopilot Coworkとの関係について公式発表をしていません。Copilot Coworkの次世代機能として統合される可能性が高いですが、詳細はMicrosoft Build 2026(2026年6月)で明かされる見込みです。
Q: OpenClawはまだ使えますか?
はい。AnthropicのAPIキーによる従量課金方式であれば引き続き利用可能です。ただし、ClaudeのProおよびMaxサブスクリプション枠は使えません(詳細はこちらの記事)。CVE-2026-25253は2026年1月29日以降のバージョンで修正済みです。
Q: エンタープライズ導入でOversharingを防ぐには?
Microsoft公式はIDECS(Identity, Data, and Endpoint Compliance and Security)によるM365環境の定期クリーンアップを推奨しています。具体的には、古い「全員共有」リンクの棚卸し、サービスアカウントへの最小権限適用、Agent 365の監査ログ定期レビューが基本対策です。
主要出典
- TechCrunch「Microsoft is working on yet another OpenClaw-like agent」(2026年4月13日)
- The Verge「Microsoft is testing OpenClaw-like AI bots for Copilot」(2026年4月13日)
- Microsoft 365 Blog「Copilot Cowork: A new way of getting work done」(2026年3月9日)
- Microsoft 365 Blog「Copilot Cowork: Now available in Frontier」(2026年3月30日)
- Microsoft「Agent 365」公式ページ(microsoft.com/ja-jp/microsoft-agent-365)
- Microsoft 365 Roadmap「Agent 365 GA May 1, 2026」(ID: 558940)
- XDA Developers「Microsoft wants Copilot to run like OpenClaw, autonomously managing your inbox around the clock」(2026年4月13日)