arXivが「AI丸投げ論文」を1年BAN──14万件の幻覚引用と、創設者自身が測った汚染
何が起きたのか 2026年5月16日、TechCrunchは、プレプリントサーバーarXivがLLM出力を確認せずに投稿した著者に対し1年間の投稿禁止を科す方針を打ち出したと報じた(TechCrunch 2026年5月16日)。方針を説明したのはarXivのコンピュータサイエンス部門チェアであるThomas Dietterich氏だ。 重要なのは、これがLLM使用そのものの禁止ではない点だ。原則は「生成経路にかかわらず、論文内容のすべては著者の責任である」という一点に尽きる。AI支援そのものは許容される。罰せられるのは「AIに丸投げして中身を確認しなかった」ことの方だ。 この方針が出たのは偶然のタイミングではない。ほぼ同時期、arXivに投稿されたZhao et al.の論文「LLM hallucinations in the wild: Large-scale evidence from non-existent citations」(2026年5月8日投稿)が、学術記録の汚染規模を初めて大規模に定量化した。そしてこの論文の共著者には、arXivの創設者であるPaul Ginspargその人が名を連ねている。自分が30年前に作ったプラットフォームが、いまAI生成コンテンツでどれだけ汚染されているかを、創設者自身が測った——この記事の核心はここにある。 arXivの新方針:「one-strike」ルールの構造 TechCrunchが伝えるarXivの新方針を、確認できる事実だけで整理する。 項目 内容 罰則 1年間のarXiv投稿禁止 禁止後の条件 以降の投稿は、まず定評ある査読付き媒体で受理されていることが必要 判定方式 one-strike(モデレータが問題をフラグ → セクションチェアが証拠を確認 → 罰則適用) 対象 LLM出力を確認していない「反論不能な証拠(incontrovertible evidence)」がある論文 異議申し立て 著者は決定にアピール可能(最終決定権はarXiv) Dietterich氏が「反論不能な証拠」として挙げるのは主に2類型だ。 幻覚引用(hallucinated references): 実在しない論文・著者・ジャーナルの引用 LLMのメタコメント混入: 生成過程でLLMが出力した文章がそのまま本文に残っているケース メタコメントの実例として複数報道が一致して引用しているのは次のような文言だ。 “Here is a 200-word summary; would you like me to make any changes?” “The data in this table is illustrative; please replace it with the actual numbers from your experiments.” ...