10%と35%は別の分母──Pewの『AI製ウェブ』を49万ページと閾値0.2から分解する
Photo by Conny Schneider on Unsplash

10%と35%は別の分母──Pewの『AI製ウェブ』を49万ページと閾値0.2から分解する

何が起きたのか Pew Research Center の Data Labs が2026年8月20日、「How Much of the Internet Is Written With AI?」と題した調査結果を公開しました(Pew Research Center 2026-08-20)。中心の数字は2つです。2026年7月に収集した英語ウェブページ1万件のランダムサンプルのうち10%が「AI著者性の明確な兆候(significant signs of AI authorship)」を示し、HTMLから公開日を検出でき、その日付がChatGPT公開後だったページに限ると、その割合は3分の1を超える、というものです。 後者の具体値は35%です。これは報道が丸めた数字ではなく、Pew の方法論ページ本文に明記されています(Pew Research Center methodology 2026-08-20)。TechCrunch はこの35%を見出しに取りました(TechCrunch 2026-08-20)。Decrypt も2026年8月22日に、TechCrunch とは別媒体として同じ Pew 調査の数値群(10%・35%・490,000ページ・.com 9.35%など)を報じています(Decrypt 2026-08-22)。 見出しとしては「ウェブの3分の1がAI製」で流通しています。ただし10%と35%は同じ母集団の数字ではなく、後者を支える分母は前者よりはるかに小さい。そして両方とも、Open Pangram という確率的な検出モデルが出したスコアを、0.2という閾値で切った結果です。順に分解します。 調査の設計:49万ページ、49回のクロール 方法論ページに手順が明記されています(Pew Research Center methodology 2026-08-20)。 2021年1月から2026年7月までに作成された Common Crawl の49回のクロールそれぞれから、英語ページを1万件ずつランダム抽出。合計490,000ページ 判定には Pangram が公開した open-weight モデル editlens_Llama-3.2-3B を使用 モデルは0から1のスコアを出力する。0が完全に人間執筆、1が完全にAI生成 スコアが0.2以上のページを「AI著者性または編集の意味のある兆候を含む」と分類 この0.2という閾値は、商用モデル Pangram 3.3 の結果に近づくよう較正して選ばれた 使われたモデルの素性も追えます。Pangram は2026年3月24日に Open Pangram を公開しており、ICLR 2026の論文で発表した EditLens 技術をベースにした open-weight 版です。ライセンスは CC BY-NC-SA 4.0 で商用利用不可、提供されるのは30億パラメータの editlens_Llama-3.2-3B(QLoRA、系列長1,024)と3.55億パラメータの editlens_roberta-large の2つです(Pangram 2026-03-24)。 ...

2026年8月24日 · ひとりユニコーン
大量に積み上がるデジタルノイズのメタファー
Photo by and machines on Unsplash

「slop」が2025年の今年の言葉に──AIが月3,200兆トークンを生成する時代の、汚染とXRグラスと開発ツール囲い込み

何が起きたのか 2025年12月、辞書出版社のMerriam-Websterが、その年の「今年の言葉(Word of the Year)」に slop(スロップ)を選んだ。辞書としての定義はこうだ(Merriam-Webster, Word of the Year 2025)。 “digital content of low quality that is produced usually in quantity by means of artificial intelligence.” 「人工知能によって、たいてい大量に生成される、低品質なデジタルコンテンツ」——これが2025年を象徴する語として辞書に刻まれた。Merriam-Websterは具体例として「ばかげた動画、調子の外れた広告画像、安っぽいプロパガンダ、本物そっくりのフェイクニュース」「中身のないAI執筆本」、そして同僚の時間を奪う「workslop(ワークスロップ)」を挙げている。同じ2025年、オーストラリアのMacquarie Dictionaryも「AI slop」を今年の言葉に選んだ(The Conversation, 2025年11月)。 slop という語自体は新しくない。Merriam-Websterによれば、1700年代には「柔らかい泥」を、1800年代には「豚の餌(食べ残し)」、転じて「がらくた・価値のないもの」を指した。その古い軽蔑語が、生成AIの時代に意味を更新して舞い戻った。 この出来事は、単独のニュースとして読むより、もう一つの数字と並べたほうが構造が見える。2026年5月19日のGoogle I/O 2026で、Sundar Pichaiは次の数字を公表した(Google公式ブログ: Sundar Pichai’s opening keynote, I/O 2026)。 “over 3.2 quadrillion per month”(月あたり3.2 quadrillion超のトークン処理) 辞書が「AIの吐き出す低品質コンテンツ」を今年の言葉に選んだその年に、Googleは1社だけで月3,200兆トークンを処理している。本記事は、この「生成の爆発」と「情報空間の汚染」が同じコインの裏表であること、そしてその同じAIが今度はXRグラスを通じて現実そのものを覆おうとしていることを、一次情報で追う。 まず事実と分析を分ける 推測が混ざりやすいテーマなので、最初に切り分けておく。 一次・準一次ソースで確認できる事実: Merriam-Websterが2025年の今年の言葉に「slop」を選定。定義は上記(公式サイト) Google I/O 2026でPichaiが月3.2 quadrillionトークンの処理を公表(Google公式ブログ) Android XRはGoogleが2024年12月12日にSamsung・Qualcommと共同発表(Google公式ブログ) Samsung Galaxy XRが2025年10月(米国21日・韓国22日)に発売、価格は約1,800ドル(Samsung Newsroom) 神戸大学の研究グループがスマートグラスのプライバシー指針案を中間報告として公表(プロジェクト公式PDF) MicrosoftがClaude Codeの社内ライセンスを段階的に打ち切りGitHub Copilot CLIへ移行(複数報道) 本記事の分析(断定しない部分): ...

2026年5月24日 · ひとりユニコーン
お問い合わせ: [email protected]